子宮 卵巣嚢腫

【子宮・卵巣・性器の病気】体験談シリーズ

子宮頸がん検診で思いがけず見つかった「卵巣のう腫」を摘出するまで。手術そのものよりつらかったことは?

婦人科系に限らず病気になったときは、専門医によるわかりやすい説明が必要ですが、実際にかかった人の体験談も理解しやすく、気持ちの面でも安心できますよね。そこで、婦人科の病気の体験談をシリーズでお届けします。

 

大声で診断されて不安な気持ちに

 

「ああっ! 右卵巣に腫瘍がある!」
 
会社の健康診断で「子宮頸がん検診」や「超音波検査」を受けていた29歳のとき、若い男性医師にこう大声で診断された樋口とも子(仮名)さん。急に大声で言われてとても驚いたと同時に、なぜか嬉しそうな医師の様子にムッとしながら、不安な気持ちで紹介状を受け取ったといいます。
 
卵巣にできる腫瘍を「卵巣腫瘍」といい、そのうち90%は良性であることがほとんどの「のう胞性腫瘍(卵巣のう腫)」で、残り10%が悪性であることの多い「充実性腫瘍」。特に卵巣のう腫は、自覚症状のないことがほとんど。だからこそ検診で見つかることが多いのです。
 
後日、婦人科を受診して精密検査を受けたところ、正式に「卵巣のう腫」と診断された樋口さん。内診、エコー、血液検査や尿検査、MRIなどを受けた結果、婦人科の医師からは「卵巣のう腫は、卵巣の外側にくっついている状態です。卵巣そのものや排卵には支障ありませんし、悪性ではなさそうですよ」と言われ、胸をなで下ろしたそうです。
 
「それまで病気らしい病気をしたこともなかったので、卵巣の腫瘍と聞いてびっくり! とても不安な気持ちになりましたが、卵巣のう腫はほとんどが良性だという説明を受けて少し安心しました」と樋口さん。

 

病院 医師 受診
photo:PIXTA

 

卵巣のう腫には、「漿液(しょうえき)性のう腫」、「粘液(ねんえき)性のう腫」、「皮様(ひよう)性のう腫/類皮のう腫(奇形腫)」、「卵巣チョコレートのう腫/卵巣子宮内膜症」の4種類があり、樋口さんは20〜30代に多い「皮様(ひよう)性のう腫/類皮のう腫(奇形腫)」だろうとのことでした。

 

卵巣のう腫の種類

 

漿液(しょうえき)性のう腫

ドロドロした粘液が溜まる卵巣のう腫。まれにがん化することがある。
 

皮様(ひよう)性のう腫/類皮のう腫(奇形腫)

皮膚組織や歯、毛髪、骨などのさまざまな成分を含む卵巣のう腫。20〜30代に多いが、10代でなることも。比較的多いタイプで、まれにがん化することがある。

 

卵巣チョコレートのう腫/卵巣子宮内膜

子宮内膜が卵巣ないにできてしまう卵巣のう腫。茶色くドロドロとした液体が溜まるため、チョコレートのう腫と呼ばれている。まれにがん化することがある。

 

卵巣のう腫が大きくなってきて

 

当初、樋口さんの卵巣のう腫は約3cm。担当医からは「あまり大きくはないので、当面は経過観察でも大丈夫ですよ」と言われたものの、どうすべきか迷ったといいます。ただ、月経前や排卵前後に大きくなるものの終わると小さくなることもあるし、このままのサイズであれば温存も可能との説明もあったので、とりあえず様子をみることに。
 
「卵巣のう腫と診断されたといっても、特に痛みも症状もなくて日常生活に支障がなかったこと、手術が怖かったこと、それから仕事がちょうど忙しいときだったこともあって、とりあえず先延ばしにすることにしました」(樋口さん)
 
ときどき経過観察をする必要があるのは、急に大きくなることもあるため。卵巣のう腫は最大で20〜30cmになることもあり、あまり大きくなると破裂したり、捻れたりして激痛が起こることもあるといいます。
 
「突然、おなかの中で卵巣のう腫が捻れて激痛が起こるのは嫌ですよね。海外旅行に出かけているときに捻れてしまったらどうしよう……って思ったりしました。なんだか時限爆弾を抱えてるみたいで」と樋口さん。

 

その後、樋口さんの卵巣のう腫は少しずつ大きくなって5cm弱に。一般的には5cm以上になると捻転や破裂のリスクが高くなるため、手術を検討することになります。樋口さんの場合、数年以内の結婚や妊娠出産を考えていたこともあって、早めに手術を受けることを決意したそう。妊娠中に捻れた場合、手術ができない訳ではないけど、傷がとても大きくなります。

 

「卵巣そのものは温存し、卵巣のう腫だけを取ることができると聞いて、もう手術しようと決めました。旅行中や妊娠中に捻転すると困るし、小さいほうが取りやすいだろうとも思って。仕事を調整して、1週間〜10日ほど休みを取ることにしました」(樋口さん)

 

手術そのものよりつらかったこと

 

数カ月後、某大学病院に入院することになった樋口さん。その病院を選んだ決め手は、主治医から「腹腔鏡下手術」の症例が多く、上手な先生が多いとすすめられたから。

 

「できれば体へのダメージは少ないほうがいいし、腹腔鏡下手術が可能と聞いてホッとしました。開腹手術よりも回復が早く、おなかの中の癒着も少なく、傷跡も小さくて済むというという説明でした」(樋口さん)

 

手術の2日前、不安な気持ちで初めての入院手続きをした樋口さん。入院すると早速、さまざまな検査をし、前夜からは水分を吸って膨張する「ラミナリア」を入れて子宮口を広げることに。「これが想像を絶する痛さ! うめき声をあげながら耐えましたが、涙が出ました。あの痛みは今でも忘れられません」と樋口さん。

 

むしろ翌日の手術は、眠っている間に終わり、なんともなかったそうです。目を覚ますと、足に「エコノミークラス症候群」予防のためのエアークッションが装着されていたこと、家族と夫(当時は恋人)が心配そうに見守ってくれていたのが印象に残っているとか。
 
「手術当日は私の母と夫が付き添ってくれたのですが、終了時に医師が卵巣のう腫の中身を見せてくれたそうなんです。それは骨や皮膚や髪や歯が混ざったものだったので、かなり怖かったということでした。私自身は見ていません」(樋口さん)
 
その後の経過は順調で、何事もなく回復したそうですが、思わぬ展開が待っていました。
 
「じつは夫は子どもを持つかどうか迷っていたんですが、卵巣のう腫の中身が皮膚や骨だったことで、私が子どもを作りたいからこうなったと勘違いし、妊活しようと言い始めたんです。否定しましたが思い込んでいたので、まあいいかと(笑)。その後、無事に妊娠出産しました」(樋口さん)

 

 

crumii編集長・産婦人科医 宋美玄の解説

 

卵巣のう腫は若い女性にもよくできることのある腫瘍で、良性のことが多いです。小さいものであればすぐに手術が必要ということではなく、定期的に診察を受けながら様子を見ることもできます。(3カ月から6カ月に一度のことが多いです)種類によっては、いつの間にか小さくなったり、なくなったりすることもあります。
 
ですが、一般的に5〜6cmくらいの大きさになると、捻転して急激な腹痛が起こり、緊急手術になることもあります。卵巣は、子宮と卵巣をつなぐ卵巣固有靱帯と、卵巣と骨盤壁につながる骨盤漏斗靱帯でハンモックの様にぶら下がっていますが、そこがねじれてしまうのです。

 

子宮 卵巣嚢腫
卵巣のう腫(画像:性教育いらすと)

 

また、破裂することもあります。そして、大きさによっては良性ではない可能性も積極的に考えないといけなくなることもあり、手術という方針がとられることも多いです。
 
手術は、腹腔鏡手術が一般的になっていますが、妊娠中や悪性腫瘍の疑いなどの理由で開腹手術が行われることもあります。腹腔鏡手術で行えるかどうかは執刀医の判断になります。また、手術中に開腹手術に切り替えることもあります。
 
多くの女性が受ける可能性のある手術なので、ぜひ体験談をお寄せください。

 

 

大西まお

編集者、ライター。出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な編集担当書は、宋美玄著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、森戸やすみ著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、名取宏著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。

 

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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