
crumii編集部の海外レポート
フランス・パリの薬局で「緊急避妊薬(アフターピル)」買ってみた!
パリの薬局でアフターピルを買ってみた!
こんにちは。crumii編集部スタッフがプライベートでパリに行ってきたので、SRHR先進国フランス、パリの薬局でアフターピル(緊急避妊薬)を購入した体験についてレポートします。フランスでの女性の権利がどのように守られているのか、その背景にある歴史や社会情勢にも触れながら進めていきますね。
そもそもアフターピル(緊急避妊薬)とは?
まず、「アフターピル」とは、性交渉後に服用することで妊娠を防ぐ可能性がある薬です。日本語では「緊急避妊薬」とも呼ばれます。避妊に失敗してしまったり、避妊ができなかったりした場合に使用されるもので、性交渉後「72時間以内」に服用すると効果が高いとされています。世界保健機関(WHO)も、望まない妊娠を防ぐ手段として緊急避妊を推奨しています。
ただし、日常的に使うものではなく、あくまで“緊急時”の手段です。ふだんはコンドームや低用量ピルなど、ほかの避妊方法を併せて考えるのが望ましいとされています。
パリのお買い物では英語はどのくらい通じる?
SRHRには全然関係ありませんが、パリの街中では、英語がほぼ通じました。ホテルや美術館など観光客がよく利用するような場所ではたいてい英語対応のスタッフがいるので大丈夫かなと踏んでいたのですが、主要な観光スポット以外、たとえば、路地裏のカフェやショコラティエの店員さん、薬局のスタッフやおばあちゃんまでも、ほぼ英語で会話ができました。
ただし、現地に住んでいる友人からのアドバイスで「ボンジュール」、「ボンソワール」など最初の挨拶はフランス語でしないと失礼に思われて態度が変わるようで、そこだけは徹底していました。
私が入った薬局でも、必要最低限のやり取りは英語で問題ありませんでした。
薬局に潜入:アフターピル購入までの流れ
パリの薬局(フランス語で「Pharmacie(ファルマシー)」)は、日本のドラッグストアに比べて少し雰囲気が違います。コンビニか少し狭いくらいの面積で、大きく分けて入口近くにある「コスメゾーン(化粧品コーナー)」とスタッフがいる会計近くにある「薬ゾーン」があり、薬が必要な場合はスタッフの方に声をかけてから購入するシステムがほとんどです。日本のように風邪薬を棚から自由に取ってレジに持っていく、という感覚とは少し違っていました。
アフターピルがほしいと伝えると
私が入った薬局は、入口近くにコスメがずらっと並んでいて、その奥に別の部屋につながる通路があり、お薬コーナーらしきカウンターがありました。(さすがに許可もなく店内でパシャパシャ撮影できず……)
そこで「アフターピルがほしい」と英語で伝えると、スタッフの方が落ち着いたトーンで対応してくれました。ちなみに、一応スマホで「緊急避妊薬が欲しいです」をフランス語に翻訳した画面を準備しておき、店員さんに見せました。
「じゃあ有人レジのほうに行ってね」と案内されて、そちらに行くとまず「性交渉はいつだった?」と聞かれました。私は「昨日の夜20時頃」と答えると、PCの前に座っていたスタッフのお姉さんがPCにデータを入力し始めました。たぶん「販売記録を残す」ルールがあるのだと思います。数分ほどで入力が終わり、そのまま購入手続きへ。
身分証明などあるかと思ってパスポートを出すつもりでいたのですが、それも不要でした。
こちらが購入したアフターピルです!
価格は薬局によって多少異なると思いますが、3.5ユーロ!!日本円にして現在の為替レートでおよそ550〜580円くらい。頭痛薬くらいの気軽さで購入できる価格ですね。
こんな感じでフランスでは処方箋なしでも購入できるため、病院へ行かずに薬局で手に入れることが一般的です。ただ、日曜にはお休みの薬局が多く筆者のステイ先ホテル周辺の薬局は1軒も開いてなかったので、日曜はやり過ごして72時間以内には手に入る、という感じのようです。
質問された内容
・服用可能な時間内かどうか(性交渉の時刻)
・過去に緊急避妊薬を使ったことがあるか
質問の内容はシンプルで、英語でもわかりやすいやり取りでした。「いつ性交渉があったか」についてはわりとしっかり確認するようです。これは「72時間以内に服用して効果を得られるか」をチェックするためだと思われます。
フランスの女性の権利とSRHRの歴史的背景
ここで少しフランスのSRHRの背景を紹介します。フランスは、女性のリプロダクティブ・ヘルス(生殖に関する健康)を重視してきた歴史があります。
かつて中絶が禁止されていたフランスでは、1970年代に妊娠中絶を合法化、自己決定を認める“ヴェイユ法”(ヴェイユは当時の保健大臣の名前。フランスでは、法案に関わった人物の名前が通称として使われるらしい)が成立し、これが大きな転機となりました。女性が自分の身体に関する選択権を持つことが、社会的にも「当然の権利」として認められる流れが加速したのです。
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000年12月に制定された“オーブリー法”では、未成年者への緊急避妊薬(モーニングアフターピル)の無料提供を法制化し、親の同意なしで利用可能に。学校看護師による提供も認可されました。
フランスにおける社会保障法典(Code de la sécurité sociale)日本でいう医療保険や年金、家族給付、労働災害など、社会保障全般を包括した法典)では、避妊のアクセスに対する権利を保障し、段階的にその対象を拡大しています。避妊に必要な診察費用などを償還の対象としているほか、個人のプライバシーを守るために親にバレない匿名性も保障しています。
フランスでは、こうした歴史的背景もあってか、SRHRの考え方が広く浸透しており、2024年には中絶の権利が憲法に明記されるなど、先進的な取り組みも注目されています。緊急避妊薬(アフターピル)も比較的取得しやすい環境が整えられてきました。若い女性でも病院や薬局で必要なケアを受けやすい仕組みがあります。
※注釈
SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)
これは「性と生殖に関する健康および権利」のことで、世界保健機関(WHO)や国連人口基金(UNFPA)が国際的なガイドラインを示しています。
・自分の身体を自分で守り、いつ妊娠するかを自分で決める権利。
・必要な医療や情報にアクセスできる権利。
SRHRについては、別の記事でも詳しく解説していますので、ご参照ください。
日本のアフターピル事情
一方の日本では、2025年3月時点でもアフターピルは原則、医師の処方箋がないと手に入れることができません。全国の一部薬局で試験販売が開始されている段階です。ドラッグストアなどの市販薬コーナーでは販売されていませんので、「購入したい場合は病院やクリニックを受診する」という流れが基本です。
医療機関での診察+処方が必須
日本では、安全性の確保や誤用を防ぐ目的のため、医師と対面やオンラインでの診察を受けて処方箋、お薬をもらう必要があります。(悪用を防ぐために、スタッフの前で内服し、飲んだことを確認するクリニックもあるようです)オンラインは診察には便利な反面、郵送でお薬を受け取るには時間がかかるというデメリットもあります。
急いでいるときの課題
性交渉から72時間以内に服用する必要があるため、「休日や夜間は病院が開いていない」といった課題が指摘されています。最近はオンライン診療の普及などによって、少しずつアクセスは改善されつつあるものの、フランスのように薬局でそのまま買えるわけではありません。また、「薬剤が高額」という課題もあります。これは、日本の制度では、薬の承認に時間と多額のお金がかかるためです。このあたりの薬剤の承認システムについても、また別の機会に解説したいと思います。
医師のリソースの課題
アフターピルがもらえるのは主に産婦人科。アフターピルの処方のために、夜間に産科当直の医師が起こされて、処方するようなケースもよくあるようです。
実際に購入してみて感じたこと
フランスでアフターピルを購入したとき、スタッフの対応は落ち着いていて、全く気まずさを感じませんでした。早い、安い、手軽。ただ問診と管理はきちんとされているようですね。パートナーと海外旅行に行った際に、避妊に失敗することもあるかもしれません。そんな時、現地での入手の方法を理解しておくと助かることがあるかもしれません。
少なくとも、パリではアフターピル購入ののハードルはとても低いように感じました。
まとめ:緊急避妊薬はあくまで最後の手段
アフターピル(緊急避妊薬)は“万が一”のためのもので、ふだんの避妊や感染症対策があってこそ、その役割を正しく果たします。それでも失敗は起こりうるので、そんなときに「アフターピルを使う」という選択肢があることを知っておくのは大切ですよね。
日本でも緊急避妊薬のアクセスを改善しようという動きは少しずつ進んでいます。
最後まで読んでくださりありがとうございました。少しでも「海外の薬局ってこんな感じなんだ」「アフターピルはこういう経緯で買えるんだ」というイメージが伝わればうれしいです。みなさんの健康と安心につながる情報になりますように。
【参考文献】