
トンデモ産婦人科医列伝 #01
更年期や生理の悩みで「高評価の産婦人科」を受診したら、診察差別された話
「うっわ、なんだこれ」
股を広げた内診台の前に来た医師に、吐き捨てるようなニュアンスでそう言われると、傷つきますね。と冷静に思うのは後からで、つい反射的に「はあ!????」と抗議強めニュアンスの言葉を投げ返してしまった。一瞬聞き間違えだろうかとも思ったが、急に丁寧に変わったその男性医師の振る舞いを考えると、やっぱり言ったのだろうか。なんだとは、なんだ。超どうでもいいことですが、見るからに不潔だとかひどい患部だったとかは、一切ないと思うんですが……。
初っ端から、個人的な婦人科検診の体験をお聞かせして失礼しました。ですが、こうした医療現場の違和感や不信感についてを、取り上げていくシリーズを担当させていただくことになったのでつい吐き出してしまいました。どうぞよろしくお願いします。
生理不順と生理痛に悩み、周囲の評判の良い産婦人科を受診
コラム初回は、診察で「差別された」と感じた女性の体験談だ。医療現場における差別は多種多用。保険証の有無、区分、性差、人種。2020年から始まったコロナ禍では、医療従事者へ向けた差別が噴出したのも、記憶に新しい(もちろんどれも、あってはならないことだ)。
現在40代のワーキングマザーであるTさんは「産科」「婦人科」で分かれる患者の対応差に、明らかな差別があったと感じたひとりだ。約20年前、某地方都市で「産婦人科」を掲げるクリニックを受診したときだ。
Tさんがそのクリニックを訪れたのは、20代の頃。当時のTさんは生理不順で生理痛も辛く、「何か病気が潜んでいるのでは」という不安を抱いた。そこで検査をしたいが、まずはクリニックを選ばなくてはならない。インターネットが今ほど発達していなかった当時は、口コミ頼りに探すことになるが、幸いTさんの周囲には出産している同世代も増えていたので、情報はそれなりに集まった。そして評判が良かったのが、そのクリニックだったのだ。

「すごくいい先生」「親身に対応してくれる」「次の出産もお世話になりたい」
当時「婦人科の受診は恥ずかしい」という気持ちがあったものの、知人たちの口コミに勇気をもらい、初診を申し込んだ。ロビーで待つ間も診察室から、患者と医師のやりとりが聞こえてくる。質問に丁寧に答えていて、噂通りの印象だ。緊張していた気持ちも、少し和らいだ。
「生理痛など放っておけ」と言わんばかりの物言い
ところが、Tさんに対する対応は驚くべきものだった。
「あなたは生理が来てほしいの、来てほしくないの!」
「今どき高校生でも周期コントロールしているのに、そんなことで来ないでほしい」
生理痛など放っておけと、言わんばかりの物言いである。もし自分だったら、冒頭の「はあ!?」を連発してしまいそうである。医師の言う通り周期のコントロールをするにせよ、ピルの処方が必要なので診察が必要なのだが、どうしろと?
それに20年前だろうが現在だろうが、「ピルで生理のコントロールをする高校生が一般的」なんてことはまずない。20年前なら(何なら最近でも)、ピルの服用に対する世間の偏見もあるだろう。遊んでいるだの、自然じゃないことをすると子どもが産めない体になるだの……。その一方で、医師からはこんな言い方をされてはたまらないだろう。今なら間違いなく、Googleマップの口コミに書かれる。
「言われんでも、二度と来るか! と思いましたね」
その医師がどのような分野を専門にしているかを調べるとまた違ったのかもしれないが、クリニックが婦人科領域の診察受け入れている以上、そこまで露骨に差をつけるのは、やはり問題があるだろう。
「産むのはいいことで、生理のつらさを訴えるのは悪いことなのか? とまで考えてしまいました。ついでに、同席していた看護師も、同じような態度でした。私たちより上の世代は、もっとひどい目にあってきていそうですよね」
Tさんの訴えたつらい生理痛や生理不順は「そのうち治る」と言われたそうだ。そうして、生理不順も生理痛も、結局放置せざるをえなかった。
産科の評判がいいからと言って、婦人科もそうだとは限らない
その後結婚出産を経た現在、更年期の不調と思われる症状に悩んでいる。
「産後何年も調子が戻らず、更年期の入り口かと思い近場の産婦人科へ行きましたが、回答は『育児疲れ』。別のクリニックでは問診表を提出したのみで、診察室に入った瞬間『漢方出しておくから、1か月様子見てまた来て』のみ。椅子に座る隙もありませんでした」
昨年かかりつけの内科で検査を受け、ようやく日常生活に支障をきたすレベルの重度の貧血だということが判明した。さらに妊活時にも不快な思いをしたことから、「産婦人科はもうこりごり」だという。
「産科の評判がいいからと言って、婦人科もそうだとは限らないことを、身をもって実感しました。そして”産んだ”という話はシェアされやすいが、婦人科系のトラブルで受診した話というのは、知人間でシェアされにくい。そうしたことも、自分にあった婦人科を見つけにくい原因だったのかもしれません。でも、匿名で情報をシェアしやすい現在でも、そのクリニックは普通に営業を続けているので、何とも微妙な気持ちになりますね」
最近ではフェムテック関連の情報を目にするたびにも、Tさんはまた複雑な気持ちになる。
「”専門家じゃない人のフェムテック”がはびこるのは、私のような思いをした人がたくさんいるというのも、原因にあるんじゃないでしょうか」
今の時代少なくなってきているとはいえ、デリカシーがなく、高圧的な医師というのは確かに存在している。Tさんのように納得のいかない思いをして不調が放置されることがないよう、医療情報の活用法が、もっと広まる必要があるだろう。
crumii編集長・産婦人科医 宋美玄の解説
産婦人科受診でのネガティブな体験談を聞くたびに、「患者さんの立場に立てない医師は残念だなあ」「方針を押し付けないって大切だなあ」と思うとともに「コミュニケーションがうまくいかなかったのかなあ」「自分で診療をしていても、相性というのはあると思う」と複雑な気持ちになります。とは言え、「これはダメだろう」というものもあるのが事実。私が医師になった2000年代初頭に比べると、患者さんに配慮することは当たり前になってきていますが、まだまだアップデートが必要だと感じます。
crumiiでは「産婦人科受診をトラウマにしない」をコンセプトに取り組んでいきます。
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru