
ミレーナ(IUS)装着中の女性2名の体験談【前編】
【ミレーナ体験談】月経困難症や肌荒れに振り回されない毎日を送りたい、と装着を決意。気になる費用や効果は?
「いままでの人生、ずっと月経に振り回されてきたような気がしています」ーーマチさんはふり返る。初潮がきたのは12歳。41歳の現在までで、月経との付き合いはもう30年近くになる。
周期が不規則で、いつ来るのかわからない。
オムツタイプのナプキンを使うこともあるほどの経血量。
月経前は決まって、気持ちと身体がズーンと重くなった。
そして月経痛。
10代のころは、授業を休み保健室で寝ていることもしばしばだった。
鎮痛剤は、お小遣いで買った。
ほかのことにお金を使いたかったけど、耐えがたい痛みにはそう対処するしかなかった。
マチさんが話す症状は、とりたててめずらしいものではない。月経について詳しく聞かせてほしいといえば、同様の話はいくらでも集まる。マチさんもクラスメイトたちと「月経が重い」「何日目?」「2日め」「あー、それはつらいわ」と言い合っていた。月経がつらいのは当たり前。みんな我慢している、と信じて疑わなかった。(この記事は全2回の第1回目です)
月経困難症、一人ひとりのツラさ
これは「月経困難症」といわれる症状で、人によって腹部や腰の激しい痛みをはじめ、吐き気、頭痛、下痢などの多様な症状が現れる。
生殖年齢の女性の25%以上に認められ、25歳未満では40%以上という統計もあることから、マチさんが語ってくれたのは、「よくある話」といってもいいだろう。
けれどそこには、数字には表れない、一人ひとりのつらさがある。月経前のPMSと月経中の症状によって私生活も仕事も大きく制限され、マチさんと同じく「振り回されている」と感じている女性は多いだろう。
月経に影響されることのない毎日を送りたい。そう考えたマチさんが希望を託したのが、ミレーナだった。
ミレーナとは、IUS(IUSとはIntrauterine Systemの略で、黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する子宮内システム) といわれるもののひとつで、子宮内に装着する小さなT字型の装置のこと。ここから女性ホルモンの一種、プロゲステロン(黄体ホルモン)が持続的に放出されることで、避妊、そして過多月経や月経困難症の改善が期待できる。一度装着すると、最大で5年間効果が持続する。


「きっかけは、モデルの益若つばささんでした。YouTubeでミレーナを使っているとお話されていて、何だろうと思ったんです。そのあと、タレントの上原さくらさんもブログでミレーナを入れたと報告されていて、ますます気になりました」(マチさん)
益若さん、上原さんの報告が相次いだのは、2021年のこと。SNSでの反響は大きかった。日本ではまだ知られていなかったミレーナの知名度が、一気に上がったと思われる。
調べてみたら、わからないことだらけ
「それから自分でも調べて、私もやってみたい!と思ったのですが、出産経験がない女性には勧めないとしているクリニックがあったりして、よくわからないことが多かったんです。最終的には、友人からの勧めが決め手となりました。すでにミレーナを装着している友人が、月経が軽くなって生活が変わったことや、装着するときの痛み、費用……いろいろ教えてくれたんです」(マチさん)
ミレーナ装着の対象を“経産婦のみ”としているクリニックは、いまでもある。その影響からか、「出産経験がない人はミレーナは使えない」と思っている女性も少なからずいるようだが、そんなことはない。未産婦でも、セックス経験がない人でも装着できる。
マチさんにとって、ミレーナは初めてのホルモン治療ではない。18歳のとき、産婦人科で低用量ピルを処方してもらった。
「毎日飲むのが、どうしても億劫に感じてしまうんです。飲み忘れると不正出血が起きるのも困るし……いえ、私が飲み忘れなければいいだけなのはわかっているんですけどね。3カ月に一度は病院で処方してもらわなければいけないのも、忙しいときにはむずかしくて」(マチさん)
ピルを中断すると、またツラい月経がはじまる。それは、イヤだ。海外から薬を輸入代行するサイトで、ピルを購入していた時期も長かった。
気になる総コストは?
ピルを飲むタイミングが、人と一緒にいるときだと困ることもある。ピルには避妊効果もあることから、「性的に活発だ」「遊んでいる」という偏見をもつ人が、いまでもいる。人前で服用することに、強い抵抗を感じた。
恩恵を感じながらも、ピルは自分にはそぐわないと感じていたマチさんに、ミレーナはとても魅力的に見えた。自分の生活にも性格にも合っている。費用を調べてみた。
「ネットには10万円と書いてあって、それなら無理だと思いました。でも、さらに調べると5万円のところもあれば、3万円もあって、ますますわからない……ただ、全体的に『高いんだな』という印象を受けました」(マチさん)
たしかに自費診療でミレーナを装着する場合は、5万〜10万円かかる。初再診、同時に行う検査や処置によるが、保険診療であれば1万円台前半で収まるところがほとんどだろう。あとは、事前、事後の検診の有無や、麻酔の有無によって総額が変わってくる。 そのことがわかってから、マチさんは本格的にミレーナ装着の検討をはじめる。
月経については、母と相談
もうひとり、低用量ピルからミレーナへと切り替えた女性を紹介したい。ミオリさん、25歳だ。現在、ミレーナを装着してから5年が経ち、そろそろ交換のためクリニックに行かなければ、と思っているところだ。
ミオリさんも、10代のころから月経痛に悩まされてきた。周期も一定ではなかった。学業に差し支えることもあったが、もうひとつ別の悩みもあった。
「肌荒れがひどかったんです。肌を清潔にしても荒れてしまって、ホルモンの影響だろうと思ったんです。思春期にはよくある悩みなのかもしれませんが、鏡を見るたびにツラくなっていましたね」(ミオリさん)

ミオリさんには、頼れる心強い味方が身近にいた。
「はじめて月経が来たときから、母になんでも相談していました。話しやすいし、わからないことは調べてくれるし。母は私が月経痛や肌荒れで悩んでいることも知っていて、あるときピルを勧めてくれました。レディースクリニックも一緒に行きましたよ。ピルについては学校の授業でも聞いていたので、特に不安はありませんでした」(ミオリさん)
ピル服用後、月経のたび痛みに苛まれることはなくなり、肌荒れも改善され、活発な学校生活を送ることになる。
ピルに不満はなかったけれど
アメリカの高校に通うことになったミオリさんは、クラスメイトたちが月経や避妊についてオープンに話すことに驚いた。たしかに、家庭では何でも話せていた。兄がひとりいるが、彼の前でも月経について隠したり話題を避けたりすることは特になかった。
新鮮だったのは、クラスメイトたちの話の内容だ。ピルを服用している同年代の女性に、日本ではほとんど会ったことがないのに、アメリカではめずらしい存在ではなく、IUDを使用している友人もいた。
「装着してからの日々が快適だという話を聞いて、私も興味を持ちました。彼女は、一度装着すると10年効果があるミレーナの仲間のようなものを使っていました。それが日本では認可されていないと知り、少しがっかりしたのを覚えています」(ミオリさん)
マチさんもミオリさんも、実際に装着している友人の体験談に背中を押されたところが大きい。ミオリさんが最終的にミレーナ装着を決めたのは、大学進学のタイミングだった。
月経に振り回されない毎日
「ピルに不満があったわけではないのですが、大学生になると高校とは違って生活が不規則になり、毎日決まった時間に服用するのがむずかしくなるかもしれないと考えました。ミレーナは一度クリニックで装着すれば、5年間何もしなくていい点に惹かれました。 ほんとうは10年がよかったですけど(笑)」(ミオリさん)
効果が5年間つづくと考えれば1万円強のコストを高いとは思わないが、これから大学進学しようとしている若者には安いともいえない。これも母親に相談したところ、費用を出してもらえることになった。帰国のタイミングで母とクリニックに行き、装着が完了した。
ミオリさんは使いはじめてすぐに効果を実感したという。
「次の月にはもう、月経がなくなったんです。たまにほんの少量の出血はあるものの、ここまでの5年間、月経のことをほぼ忘れて生きています。私はサウナが大好きなのですが、月経があると行けなくなってしまう……ミレーナを入れていると、不正出血が不定期に起こる可能性はあるものの、比較的好きなときに行けますよね」(ミオリさん)
20代前半を、月経に煩わされずに過ごすことができた。装着から今年で5年。今年は交換を予定している。いまのところ子どもをもつ予定はないので、次の5年もミレーナのお世話になるつもりだ。
(後編につづく)
三浦 ゆえ
編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る小児性被害』(今西洋介著、集英社インターナショナル)、『性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うことなかれ』(斉藤章佳・にのみやさをり著、ブックマン社)、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)などの編集協力を担当する。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。