
【妊娠初期の下腹部痛】原因や対処法、流産など重篤なリスクに結びつく痛みとの見分け方【産婦人科医が徹底解説】
妊娠がわかったばかりの頃というのは、ちょっとした体の変化でも、「赤ちゃんに影響があるのでは?」と不安になりやすい時期。普段は気にならないような症状でも、「この痛みは普通なのか、それとも何か危険な兆候なのか」と心配になっても無理はありません。
実は、妊娠初期に下腹部の軽い痛みや違和感を感じるのは珍しいことではなく、多くの妊婦さんが経験している症状です。「よくある」と分かっていても、自分の体や赤ちゃんに関わることとなると不安が消えないもの。
そこで本記事では、妊娠初期の下腹部痛の原因や対処法、そして流産など重篤なリスクに結びつく痛みとの見分け方を丁寧に解説していきます。
これからの赤ちゃんとの生活が少しでも穏やかに、笑顔で始められるよう、ぜひ最後までご覧ください。
妊娠初期の下腹部の痛みはよくある痛み
妊娠初期(妊娠1〜4か月ごろ)には、下腹部に軽い痛みや違和感を覚えることがあり、多くの妊婦さんが経験しています。これは、厚生労働省の「妊産婦のための健康管理と安全対策ガイドライン」などでも、妊娠に伴う生理的な変化として説明されています。もちろん、どの程度痛いのか、どれくらい続くのかは個人差がありますが、「痛み=すべて異常」というわけではないので安心しましょう。
目安として12週目までくらいは続く事も
女性ホルモンの分泌量が急激に増える妊娠初期は、子宮まわりの組織が変化しやすく、下腹部の痛みを感じる方もいます。日本産科婦人科学会によると、妊娠4〜12週目頃まで続くことも珍しくありません。ただし、痛みの強さや持続性、出血の有無などによっては早めに医療機関を受診したほうが良いケースもあります。
※注釈
女性ホルモン:妊娠、出産のために体を準備させたり、全身に影響するホルモンのこと。妊娠時にはエストロゲン・プロゲステロンなどの女性ホルモンが増加し、妊娠を維持しやすい環境を整える役割を担います。
妊娠初期 下腹部の痛みが起こる原因は?
妊娠初期に下腹部の痛みが生じる理由は、主に次のようなものが挙げられます。
原因01. ホルモンバランスの急激な変化
妊娠が成立すると、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの分泌量が一気に増えます。これらのホルモンが子宮内膜を維持したり胎盤を形成したりするために重要ですが、この急激な変化が下腹部の違和感や軽い痛みを引き起こすことがあります。
※注釈
エストロゲン:女性の二次性徴(にじせいちょう)や生理周期を調整するホルモン。妊娠中も子宮や乳腺の発達をサポートします。
プロゲステロン:子宮内膜を厚くして受精卵が着床しやすい状態を作り、妊娠を維持するために重要なホルモンです。
原因02. 子宮や靱帯(じんたい)の伸展
妊娠に伴って子宮は徐々に大きくなり、その子宮を支える靱帯も伸びていきます。特に「円靭帯(ラウンドリガメント)」と呼ばれる靱帯が引っ張られることで、下腹部(両脇)が突っ張るような痛みを感じることがあります。くしゃみや急な姿勢変化の際に痛みが強まることもあります。
※注釈
円靭帯:靭帯は骨や臓器を結びつける丈夫な線維組織。子宮の左右両側にある靱帯で、子宮を固定させる役割があります。妊娠初期から中期にかけて伸張に伴う痛みを感じやすいです。
原因03. 消化器の変化(便秘やガス溜まり)
ホルモンの影響で腸の動き(ぜん動運動)が低下し、便秘になりやすくなります。便秘やガス溜まりが下腹部の痛みや張り感を引き起こすことがあります。食物繊維や水分を十分にとると、こうした症状を予防しやすくなります。
※注釈
ぜん動運動:食べ物や便を腸内で移動させるための筋肉の動き。妊娠中はホルモンの作用でゆるやかになり、便秘が起こりやすくなります。
原因04. ストレスや心理的要因
妊娠がわかると喜びと同時に不安も増えやすくなります。ストレスや緊張状態が続くと、自律神経が乱れ、下腹部に違和感や痛みを感じる方もいます。十分な休養とリラックスが大切です。
※注釈
自律神経:意識せずに心拍や呼吸、消化などを調整する神経。ストレスによって乱れやすく、腹痛や便秘の原因になることがあります。
妊娠初期の痛みで流産に繋がりうる痛みはどんなものがあるのか
下腹部の痛みがあると、「これは流産の兆候なのでは?」と心配になる方は多いです。大半の軽い痛みは、生理的変化によるものですが、次のような症状を伴う場合は流産リスクがあるかもしれないので早めに受診しましょう。
・強い腹痛と大量の出血
生理痛とは比べものにならない強い痛みや、鮮血の大量出血がある場合
・痛みが断続的に続き、出血もある
鈍痛が収まらず、止まらない出血を伴う場合
妊娠初期には、ごく少量の出血が見られる「着床出血(ちゃくしょうしゅっけつ)」のようなケースもありますが、痛みと出血がセットで継続したり、強く起こるようなら、できるだけ早く産婦人科を受診しましょう。
※注釈
着床出血:受精卵が子宮内膜に着床するときに起こるわずかな出血で、妊娠初期に見られる場合があります。
妊娠初期 下腹部の痛みの種類
妊娠初期の下腹部の痛みは、人によって感じ方や原因が異なります。以下では代表的な痛みをいくつかご紹介します。
突っ張るような痛み
症状の特徴
・下腹部の左右または中央が“引っ張られる”ように痛む
・子宮や靱帯が伸ばされることで起こりやすい
・体勢を変えた時や咳・くしゃみをした瞬間に痛むことも
注意すべきポイント
・一時的な痛みであることが多く、軽度であれば心配いらない
・痛みが強くなったり長時間続く場合は自己判断せず、早めに医療機関へ相談を
シクシクとした軽い痛み
症状の特徴
・生理痛のようにシクシク、または重苦しい感じで痛む
・ホルモン変化や腸の動きの低下、便秘などが関わる
注意すべきポイント
・多くは一時的に起こり、やわらぐことが多い
・出血を伴ったり、痛みがどんどん強くなる場合は要受診
チクチクと刺すような痛み
症状の特徴
・下腹部の局所的な部分がチクチクと刺すように痛む
・子宮周囲の神経が刺激される、またはガス溜まりによることも
注意すべきポイント
・体を動かすと痛みが軽減する場合は、軽度の筋肉や靱帯の痛みが原因なことが多い
・痛みが激しく、動くのもつらいほどの場合は医師に相談を
※【専門用語解説】
生理痛:月経時に感じる下腹部の痛み。子宮収縮によるものが主ですが、妊娠時の痛みとはメカニズムが異なる場合があります。
妊娠初期 下腹部の痛みの対処法は?
ここでは、妊娠初期特有の下腹部痛をやわらげるための方法をいくつか紹介します。先ほど紹介したように、痛みの原因は妊娠が要因のものもありますが、妊娠によって便秘など消化器系のトラブルを抱えている場合もあります。
ただし、痛みが強い場合や出血がある場合は自己判断せず、早めに医療機関を受診しましょう。
対処法01. 適切な服装を心がける
自分が快適と感じられる服装を心がけましょう。暑すぎず寒すぎないように、空調なども配慮して羽織ものなどで調節できるようにするのがおすすめです。
締め付けすぎない
締め付けるスキニーパンツのようなものは避け、ゆったりめの服装をセレクトしましょう
暑く、寒くしすぎない
温める必要はありませんが、汗をかいたり過度に冷えたりしないよう心がけましょう

対処法02. 食生活を見直し、便秘を予防する
妊娠初期はつわりなどもあって、食生活のコントロールは難しいと思いますが、食べられるものを食べて栄養をとりつつ、可能な範囲でかまいませんので、便秘を予防できる食事を取り入れていきましょう。腹痛が続いていたけれど、便秘が解消したらスッキリできた!という妊婦さんも、たくさんいらっしゃいます。
食物繊維を意識的に摂取
野菜、果物、海藻、豆類など
充分な水分補給
1.5〜2リットル程度をこまめに摂る
発酵食品の摂取
ヨーグルトや納豆などは腸内環境を整えるのに役立ちます
対処法03. 適度な休息とストレスケア
妊娠がわかった後は、赤ちゃんがきちんと育っているか、自分の体調はどうか、いつも以上に気になってしまいます。心身の負担を軽減するためにも、できるだけリラックスを心がけましょう。
睡眠をしっかり確保
妊娠初期は特に疲れやすい
ストレス解消
軽い散歩や読書、音楽鑑賞など自分に合ったリラックス法を取り入れる
下腹部の痛みに関しての注意点
自己判断で市販薬を飲まない
妊娠中に使用できる鎮痛薬は限られます。薬を使う場合は必ず産婦人科医や薬剤師に相談を。
痛みの程度や持続時間をメモ
受診時に医師に伝えることで、原因を特定しやすくなります。
出血の有無やおりものの色、量もチェック
異常があれば早めに相談を。
痛みが治まらない場合は医療機関に相談を
「下腹部が痛い」という症状だけでは、原因やリスクを正確に見極めるのは難しいです。特に次のような場合は、遠慮せず医療機関に連絡や受診をしてください。
・強い痛みが続く、または増強する
・出血や発熱、嘔吐や下痢など、他の症状を伴う
・日常生活に支障が出るほどの痛みや不安を感じる
妊娠初期は心身ともに大きく変化する大切な時期です。気になることがあれば、早めに産婦人科を受診して赤ちゃんとご自身の健康を最優先に考えましょう。
妊娠初期の下腹部の痛みは、多くの場合、ホルモンや子宮の変化にともなう“よくある症状”ですが、中には注意が必要な痛みもあります。不安があれば自己判断せず早めに産婦人科を受診し、安心して妊娠生活を送っていきましょう。