妊婦 オフィス

妊娠の職場への報告、どのタイミングがベスト? 産婦人科医が解説します

妊娠初期は体調の変化が大きく、つわりや倦怠感などで仕事のパフォーマンスに影響が出ることも多い時期。
 

一方で、職場への報告は「どのタイミングがベストなのか?」と悩む方も少なくありません。妊娠初期は母体と赤ちゃんにとって身体が形成される非常に重要な時期であり、身体の負担を減らすためにも、職場の配慮やサポートが必要なこともあります。
 

本記事では、妊娠がわかった際にいつ、誰に、どのように報告すればよいのかについて解説します。あわせて、母子健康手帳(母子健康カード)や診断書など、報告時に知っておきたい書類や手続きについても取り上げます。大切な妊娠初期を安全・安心に過ごしながら、今後の働き方をスムーズに進めるためのヒントに、ぜひ参考にしてみてください。

 

妊娠報告はどうすべき?

どのタイミングが理想?

妊娠検査薬で陽性反応が出るのは、一般的に生理予定日から1週間ほど経過した頃が目安といわれています。(妊娠検査薬に関しては別記事を参照)

 

ただし、産婦人科で超音波検査(子宮内に胎嚢〔たいのう:赤ちゃんが入っている袋〕が確認できるかどうかを調べる検査)を行うのは通常5〜6週以降、赤ちゃんの心拍が確認できるのは6〜8週頃になることが多いため、本格的に妊娠が確定するのはもう少し後です。

 

胎児 エコー写真
photo:PIXTA

 

妊娠の可能性があれば、できるだけ早めに産婦人科を受診し、心拍が確認できたら、医師の指示に従って自治体に妊娠届を提出し、母子健康手帳(以下、母子手帳)をもらいましょう。自治体によっては、母子手帳の交付時に出産予定日の記入や妊娠証明書を求められる場合があります。事前に必要な手続きの確認をしておくと、無駄な手間が減らせるのでおすすめです。母子手帳は、妊娠中の健康状態や健診結果、赤ちゃんの成長などを記録し、出産後は子どもの予防接種や健康診断の履歴を管理するための冊子で、妊娠届を提出することで交付されます。
 

自治体によっては、母子健康手帳に健診の割引チケットが付属してきます。後からキャッシュバックされる場合もあり、チケットの運用や助成金については、お住まいの自治体に確認しましょう。

 

一方、職場や友人への報告は、心拍確認後から安定期(16週以降)に入る頃に行う方が多い傾向にあります。ただし、この頃につわり(悪心・嘔吐といった妊娠初期に多い症状)がひどかったり、職場の環境に妊娠中に避けたいリスク(重い荷物を扱う、有害物質がある等)がある場合などは、仕事上の配慮を得るためにも早めに伝えることが必要になってきます。

 

誰に伝えるべき?

まずは、最も近しい家族やパートナーに伝える方がほとんどです。妊娠初期は流産の可能性も高いため(日本産科婦人科学会によると約10〜15%)、心身のサポートを得られる人を優先して知らせると安心できます。


職場への報告は、直属の上司や人事担当者など、業務調整や産休・育休に関わる部署から始めるのが一般的。報告の際には、会社の就業規則を確認したうえで、必要な書類があれば準備しておきましょう。
 

妊娠中に避けたいリスクのある職場では、業務内容によっては、妊娠が判明した時点で業務を配置換えするなどの規則がある企業もあります。
必要に応じて、医師や助産師からの指示内容をまとめた「母性健康管理指導事項連絡カード」や、場合によっては医師の「診断書」を提出することで、具体的にどのような勤務上の配慮が必要なのかを円滑に伝えられます

 

早すぎてもいいの?

妊娠は喜ばしいことですが、早すぎる段階での報告にはまだ不確定要素が多いことを認識しておきましょう。


一方で、つわりや体調不良などが早期に起こる場合、仕事をセーブする必要があるなら「まだ確定ではないかもしれないけれど、こういった症状がある」と伝え、周囲の理解やサポートを得ることが重要です。


厚生労働省が公開している働く女性の妊娠中の健康管理情報でも、無理をせず早めに相談することが勧められています。早めの対応が結果的に母体と赤ちゃんを守ることにつながるので、気になることがあれば産婦人科で相談し、必要に応じて職場にも共有しましょう。

 

妊娠報告時に確認しておきたいポイント

退職・復職の意向

妊娠・出産を機に退職するか、育休(育児休業:法的に定められた子育てのための休業制度)を取得するか、早めに方針を考えておくとスムーズです。特に、育休を取得する場合は法律(育児・介護休業法など)や会社の就業規則で定められた条件を把握しておきましょう。


復職を考えている場合、上司や人事とコミュニケーションを取って、時短勤務や在宅勤務が可能かどうかを確認しておくと安心です。また、職場によっては、診断書があれば特別休暇を取りやすい場合もあります。事前にどのような手続きが必要なのかも含め、調べておきましょう。

 

社内の育休制度、申請手続きを確認しよう

会社によりますが、法定基準より手厚い支援制度(独自の育休延長、育児手当など)を設けている場合があります。報告のタイミングで総務や人事に相談し、自分が活用できる制度をチェックしておきましょう。
 

また、制度の申請には書類の準備や提出期限があることも多いので、母子健康手帳や必要な診断書など、受診時に医師からもらう資料はなくさないように保管し、期限内に提出しましょう。

 

急な通院やお休みに備え、業務の引継ぎ、共有を

妊娠中はつわりや切迫流産などで急に入院や通院が必要になることもあり得ます。属人的な仕事にならないよう、この時期から業務の引継ぎや共有を早めに進めておくと安心です。以下のようなポイントをまとめておくと、トラブルを防ぎやすくなります。

 

・担当しているプロジェクトの進捗状況や重要な連絡先
・今後想定されるタスクと優先度
・お客様との契約や社内申請などの締め切り

・万が一のときに誰が代わりに対応するか など

 

妊婦 オフィス
photo:PIXTA


 

職場への報告をする際には、医師の診断書や母性健康管理指導事項連絡カードを活用して、勤務時間や業務内容の調整が必要であることを具体的に示すとスムーズです。
「母性健康管理指導事項連絡カード」は、産婦人科の医師が、妊娠中の方への配慮事項を具体的に記載し、職場に提出することで、法的根拠をもって会社に対応を求められる書類です。
 

勤務時間の短縮、休憩の延長、業務内容の変更、在宅勤務への切り替えなど、必要な措置を会社が検討・実施する義務が生じる強制力のある書類なので、これとは別に診断書は必要ありません。必要な時は医師に相談しましょう。
 

現在は、リモートワークの活用など選択の幅も広がってきていますので、柔軟に対応してもらえるよう交渉してみましょう。

 

実際どうだった?みんなの声

 

早く上司に報告して体調不良時も休みやすかった

 「つわりがひどかったので、すぐに伝えて診断書も提出しました。上司や同僚が積極的に業務をフォローしてくれたので、とても助かりました」

 

安定期まで待ったけれど心配でしかたなかった

「初期流産のリスクがあると聞いて安定期まで言えずにいましたが、その間ずっと体調が悪くて…。もう少し早く伝えておけば、気持ちも体も楽だったかもしれません」

 

仕事の都合ですぐに伝えられない葛藤があった

 「ちょうど大きなプロジェクトの最中で、引継ぎ相手も忙しそうで言い出しづらかったです。もっと早く母子健康管理指導事項連絡カードを活用して、上司に相談しておけばよかったと思います」

 

いずれも2022年の調査ですが、だいたい妊娠2〜3ヶ月の時期に報告するケースが多そうです。


出典:ゼクシィBaby「Mama's Voices(アンケート記事)」より https://zexybaby.zexy.net/article/contents/0156/

 

それぞれの置かれた状況や職場環境によって、「早めに報告する派」「安定期に入ってから伝える派」など考え方はさまざまです。大切なのは、自分の体調や職場環境をふまえて負担を最小限にできる時期を選ぶことです。
 

安定期はあくまで目安。自分の体調を優先しよう

妊娠の報告は、一概にいつが良いとは言えません。体調、仕事内容、職場の状況などを考慮し、自分にとって最適な時期を選ぶことが大切です。


安定期(一般的に妊娠16週以降を指す期間)は流産のリスクが下がり、つわりも落ち着きやすい時期といわれていますが、そもそも「安定期」というのは医学用語ではありません。
 

妊娠中、絶対に安全な時期というのはないのです
 

人によっては妊娠高血圧症候群や切迫早産(早産のリスクが高まった状態)などが起きる場合もあるため、無理をしないことが何より大切です。
 

また、安定期前後に妊娠報告をするにしても、母子健康手帳や診断書の準備、職場との業務調整が必要になります。特に診断書や母性健康管理指導事項連絡カードには、医師が具体的に妊婦への配慮を記載するため、職場側もリスクや必要なサポートを正しく理解しやすくなります
 

妊娠期は気持ちも体も大きく揺れ動く時期。産婦人科で相談し、必要があれば早めに診断書や母性健康管理指導事項連絡カードを発行してもらいましょう。周囲の人にサポートをお願いしながら、できるだけリラックスして過ごしてください。

 

【参考文献】
厚生労働省「働く女性の心と体の応援サイト」

母性健康管理に関するQ&A
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/faq/index_w.html
 

厚生労働省「働く女性の心と体の応援サイト」

母性健康管理指導事項連絡カードの活用について
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/renraku_card/

 

柴田綾子・重見大介,女性診療エッセンス100,2021,日本医事新報社

 

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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