生理用ナプキン 無料

crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #01

月経血自己責任論、大量持ち帰りの可能性…「トイレに生理用ナプキン設置問題」はなぜここまで大炎上したのか?

SNSでくりかえし起こる炎上。女性のからだやSRHRに関連することも珍しくありません。たかがネットの炎上と侮るなかれ。多数の意見が世論となり、企業や政治を動かすこともしばしばです。

 

こちらでは、炎上しているトピックを取り上げ、編集長目線で掘り下げていきます。

 

記念すべき第一回は……

 

「トイレに生理用ナプキン設置問題」

 

325日に、三重県津市の県議会議員で、日本共産党の吉田紋華(あやか)さんがX(旧Twitter)で津市役所に生理用ナプキンが設置されていなくて困った旨をつぶやかれました。「トイレットペーパーみたいに、生理用ナプキンをどこでも置いてほしい。」

 

これが賛否を巻き起こし、その後長きにわたり方々で炎上を続けるに至ったのです。

 

「そもそもバッグやポーチに一つくらいナプキンを持ち歩いているものでしょ」「トイレットペーパーで応急処置をすればいいだけ」という、「月経血自己責任論」に共感する人も多く見られました。

 

「生理の貧困」が社会問題化し、生理用ナプキン設置が少しずつ広がるが…

 

コロナ禍真っ最中の2021年ごろ、経済的事情などで生理用ナプキンを買えない人の存在が問題になり、「生理の貧困」というワードができて社会問題となりました。経済面だけでなく、親が買ってくれないなど様々な事情で生理用ナプキンに十分にアクセスできない人の存在が改めて浮き彫りになりました。その後、学校や公共施設での設置が少しずつ広がっていますし、飲食店などの商業施設でも設置しているところが増えているようです。

 

産婦人科医としては、婦人科疾患(ホルモン疾患や筋腫などの腫瘍)のために生理不順や突然大量に出ることがあり、トイレで困り果てたという患者さんの声もよく聞きます。そのため、「トイレに行く時に常にナプキンを携帯」と言われても、予測できないタイミングで出血することはしばしばあるし、と思いますし、「突然の時はトイレットペーパーで対応すればいい」と言われても、水で溶けるトイレットペーパーで大量出血をどう対応するのか、と思ってしまいます。対応できる人はそうすればいいですが(私も何度もそうしたことがあります)、できないシチュエーションというのもそう珍しくはないので、設置が広がることを好ましく思っていました。

 

そのため、

 

 

とつぶやいたところ、これまた賛否を巻き起こして大炎上。生理とは無縁のはずの男性と見られるアカウントが数多く参戦して、とにかく自分にはメリットがないのに自分以外の誰かが得をするのが許せない人というのがいるのかなあと思いました。

 

そこで多く見られたのが、

 

「大量に持って帰る人がいるので無料は良くない。販売機を設置すればいい」

 

というもの。確かに、無料だとそういう心配が出てくるのは当然です。私も、学校や公共施設には無料で設置してほしいですが、あらゆるトイレに設置すべきと思っているわけではないし、モラルハザードは困ります。実際、トイレットペーパーの盗難も頻繁にあるようです。(それでもトイレットペーパーは設置をとりやめることはないようですが)

 

私のクリニックで生理用ナプキンを無料設置にしている理由

 

私のクリニックでは、内診室の着替えブースに色んなサイズの生理用ナプキンを置いていて「ご自由にお使いください」と表示しています。(無料ではなく販売している医療機関も多いですがそれぞれの方針でいいと思います)ほとんどの患者さんは診察や処置の際の出血に対応するために使っておられるのではないかと思います。ただ、補充するスタッフによると、たまにごそっと減っていることもあるそうです。ご自由に、と書いてあるので悪いことではありません。それがクリニックの経営を圧迫するほど大量であれば対処が必要ですが、別に影響があるほどでもない、という感じです。

 

一方、販売機を設置するとなるとどうなるか。まずは機械を購入またはレンタルするための初期費用が必要となります。そして保守費用やメンテナンスも。また、決済方法は現金なのか、交通系ICなのか、あらゆる決済方法に対応するべきなのかという問題が出てきます。トイレで急な大量出血で困った場合、硬貨、それも特定の百円玉とか五十円玉を持っているのか、決済用のカードを持っているのかというと、ナプキン同様持ち合わせていない人もいるのではないでしょうか。それではあまり意味がありません。売れなければ設置しても元が取れないし、無料でナプキンを置く方が結局安上がりということも往々にしてありえます。

 

結局はディスペンサーを工夫して、バネ式で一個取り出すのがそれなりに労力や時間がかかるようなものにして、無料で設置するのがいいのではないかな、と運営者目線では思います。

 

こちらのように、広告を見るとナプキンが出てくる機械もあるので、設置が広まるといいなと思います。

 

https://toreluna.com

 

最後になりますが、生理用ナプキンは女性のからだの問題であり、党派性やイデオロギーの関係ないところで議論していきましょう。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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