女性 SOS

crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #01

16歳少女が赤ちゃんを遺棄。起こってしまった結果のすべてを、一人の未成年の女性に背負わせてしまっていいのか?

SRHR(性と生殖の健康と権利)と言われても具体的にどんなこと?と思われている方も多いと思います。こちらのコーナーでは、時事ニュースのうち、SRHRに関連するものをピックアップして、SRHR目線で深掘りしていきます。

 

第一回はこちら。

 

16歳の少女が赤ちゃんの遺体を自宅に放置か…死体遺棄の疑いで逮捕 3月上旬に出産…

4月6日、長野県で16歳の少女が自宅に赤ちゃんの遺体を放置し、死体遺棄の疑いで逮捕されたという報道がありました。父親は分からないとも書かれています。経緯の詳細は明らかではありませんが、生まれて間もない命が失われてしまったことは、とても悲しく、やるせない気持ちになるニュースです。

 

「16歳の少女が赤ちゃんの遺体を自宅に放置か…死体遺棄の疑いで逮捕 3月上旬に出産…」(TBS NEWS DIG)


報道からは、この少女に悪意があったとの印象はありません。妊娠中も誰にも頼れず、どうすることもできずに、ひとりで出産し、赤ちゃんも死んでしまい、その後もどうしていいかわからなかった――想像を絶する状況ではないでしょうか。
 

残念ながらこのようなニュースは、何度も見覚えのあるものではないでしょうか。望まない、あるいは予期しない妊娠に直面した若い女性が、出産後に追い詰められ、孤独な決断をしてしまうケースが、これまでも何度も報じられてきました。その度に多くの方からなんとかしなければいけないという声が上がりますが、根本的な解決にはまだまだ至っていない現状があります。
 

「気づいていたけれど、誰にも言えなかった」予期せぬ妊娠は、誰にでも起こり得る

私はかつて、産婦人科医として周産期センターで勤務していました。そこでは、妊婦健診を一度も受けていないまま、陣痛が始まってから受診する女性を何人も診ました。(その後「未受診妊婦」として社会問題となりました)その多くは、赤ちゃんを自分で育てられないという事情を抱えておられ、病院側で乳児院や養子縁組などの手続きを進めたこともしばしばでした。未成年の妊婦も珍しくありませんでした。でもその方々は最終的に病院に来てくれた。そこはとても良かったと思います。

 

予期しない妊娠は、誰にでも起こり得ます。特に若年層では、避妊の知識を知る機会がなかったり、パワーバランスのある中で性交が行われたり、性についての相談相手がいなかったりする中で、ひとりで悩みを抱えてしまうこともあります。そして、周囲や家族が気づいていたとしても、必ずしも関係性がいいとは限らず(性虐待事例もあります)結果的に状況を好転させられないことも多いです。

 

妊娠検査薬 女性
photo:PIXTA

 

私が経験したいわゆる未受診妊婦の方々の中には本当に妊娠に気づかないまま出産を迎えたという方もいますが、ほとんどの場合は「気づいていたけれど、誰にも言えなかった」と言われます。身近な人に相談できる環境でなければ、安心して相談できる窓口にアクセスできる、そのような社会にする必要があると思います。

 

予期せぬ妊娠に悩む方が相談できる「にんしんSOS」、認定NPO法人ピッコラーレ

妊娠に気づいたときに、匿名で・費用の心配なく・安全な医療につながるような相談窓口や制度がもっと周知される必要があります。全国で展開されている「にんしんSOS」や、認定NPO法人ピッコラーレが運営する支援活動などは、予期しない妊娠に悩む方が自分のペースで相談できる貴重な存在です。

 

認定NPO法人ピッコラーレ 

 

今回のような報道で、必ずこのような窓口を紹介するようにすると広まりやすくなるかもしれません。

 

また、「産む・産まないを自分で決められる」「産みたいなら、安全な場所で出産できる」仕組みとして、ドイツなどで導入されている「内密出産(匿名出産)」のような制度の必要性ではないでしょうか。もちろん、赤ちゃんのために、望まれた環境で育てられる選択肢を用意することが前提です。

 

避妊に対して男性がもっと当事者意識を持つためにも、法や制度のあり方を議論すべき

そしてもう一つ、こういった報道で必ず論点になるのが男性側の責任です。現行の日本の法律では、「妊娠させた」という事実だけで男性が罪に問われることはありません。ただ、法的責任が発生しないことが、妊娠という事柄に対して無責任な行動を助長してしまっている面もあるかもしれません。避妊に対して男性がもっと当事者意識を持つためにも、法や制度のあり方について議論すべきではと思います。
 

今回の報道では、起こってしまった結果のすべてを一人の未成年の女性に背負わせてしまっていいのかと、感じた方が多いと思います。もしかしたら大切な人やあなた自身に起こりえることかもしれません。このような悲しいことが起こらないように一人一人が声を上げる場を作っていきたいです。

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