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気になるキーワード 「思春期早発症」

うちの娘が思春期早発症!? 小児科医の父と、助産師の母が真っ先に心配したこととは

教室に設置された身長計と体重計

「思春期早発症」は、子どもが平均より2~3年早く思春期を迎える状態です。決してめずらしくないにもかかわらず、あまり知られていません。

『うちの子、発育が早いかな?と思ったら読む本 思春期早発症の受診・治療・対策』(日東書院本社)は、思春期早発症に気づくきっかけから、生活のなかで気をつけたいことまでを網羅した、ありそうでなかった一冊です。

監修は、小児科医・新生児科医の今西洋介さん(ふらいと先生)。当時小学校1年生の長女に起きた変化から、今西さん一家の思春期早発症との日々がはじまりました。

crumiiでは3回にわたり、思春期早発症の特徴や治療、子どもとの向き合い方を解説します。第1回は、『うちの子、発育が~』の「はじめに」を、一部編集のうえ掲載します。

 

※本コラムはすべて、思春期早発症の当事者である長女と、同性の親として早い思春期にずっと伴走してきた妻にも読んでもらい、その了承を得て掲載しています。子どもとコミュニケーションをとってその意思を確認し、尊重する、同意をとるというのは、思春期早発症への対応だけでなく、子育てにおけるすべての場面で大事だと考えています。(今西洋介)

 ある日、お風呂から出てきた妻が、私にこう言いましたーー「娘に陰毛が生えてる」。わが家には女の子が3人いますが、長女のことです。当時、小学校1年生でした。妻の顔は青ざめていて、私もサッと顔から血が引くのを感じました。

「それ、思春期早発症じゃないか……?」

 私がなんとか口からしぼり出すと、妻は黙ってうなずきました。

テーブルに向き合って話す夫婦同士の手
Photo:PIXTA

 こんにちは、今西洋介です。小児科医・新生児科医として、そして公衆衛生の専門家として、子どもの成長・発達について、それを取り巻く社会について書籍やSNSで発信しています。本書においては、そうした専門家としてだけでなく、思春期早発症の娘をもつ父としての視点が大きく含まれます。

 本書は、思春期早発症、つまり子どもが通常期待される年齢よりも早く思春期に入る状態についての一冊です。

「思春期」と聞くと、反抗期や恋愛、心の揺れ動きといった“精神的な成長の時期”を思い浮かべる人も少なくないでしょう。しかし医学的には、思春期とは、性ホルモンの働きによって二次性徴が起こり、子どもの身体が大人へと変化していく成長過程を指します。本書では、この本来の意味――身体の成熟が起きる時期という意味で、思春期という語を用います。

 思春期早発症は、めずらしくない病気でありながら、広く知られていません。成長するうえで何が起きるか、どんな困りごとが出てくるか、どう対処すればいいのかが共有されていない社会では、お子さんも、それを支える親御さんも、情報の少なさゆえに壁に直面し、親子だけで悩まなければいけないことになります。

 冒頭で紹介したわが家の出来事は、ご家庭でお子さんの思春期早発症に気づく典型的なパターンです。そこで私がすぐに「もしかして?」と思い至ったのは、私が医師で、病名を知っていたからです。妻は助産師なので、やはり知識がありました。

 そうでなければ、「ちょっと成長が早いな」「でも、いまどきの子は早熟だっていうから」と受け取ってしまうのは、なんらおかしくないと思います。

部屋で膝を抱える小学生の女児Photo:PIXTA

 

 私と妻は、真っ先に「病院で診てもらわないといけない」と考えました。長女は不安で泣いていましたが、思春期早発症を侮ってはいけないというのが、夫婦そろっての考えでした。

 ひとつめの心配は、将来的に低身長になることです。年齢が低く十分な身長に達していないうちに思春期がはじまると、身長の伸びが早期に止まり、成人時の身長が予想よりも低くなる可能性があります。

 ふたつめにして最大の心配は、脳腫瘍の可能性です。思春期が早くなる原因はいくつかあり、なかには、脳腫瘍のせいで性ホルモンが分泌されている、というものもあります。長女の心身が心配であると同時に、こうも考えました。

「脳腫瘍が見つかったら、治療は何年にも及ぶし、学校も休ませることになる」
「次女と三女は、お留守番が多くなるだろうな。妻は助産師を辞めて付き添いになるし、自分も働き方を変えないといけない」

 どのご家庭でも、こうなると思います。子どもの病気は、家族全体の重大事。万が一のときは全力で支えようと思うからこそ、現実的な問題が頭をよぎります。

「脳腫瘍」と書かれたメモと脳の形をした置きものPhoto:PIXTA

 長女は病院でさまざまな検査を受けましたが、そこには頭部MRIも含まれていました。脳腫瘍の有無を確認するためです。検査の後、放射線科の医師が作成したレポートを私も見せてもらうことになりました。撮影画像をクリックする自分の右手が、見たことのないくらい震えているのがわかりました。

 幸いなことに、長女の脳に異常は認められませんでした。医師なのにおかしいと思われるかもしれませんが、このときばかりは神に感謝しました。

 ほかにもさまざまな検査を受け、長女は、これといった理由がないけれど思春期が早くはじまったケースだとわかりました。このあと詳しく解説していきますが、思春期早発症のなかでもっとも多いケースです。

 親として、医師として、両方の視点からとても印象深かったのが、長女を診てくれた医師の対応です。

 思春期早発症の診察では、女の子なら胸のふくらみや陰毛、男の子なら精巣の大きさや陰毛など、思春期の進み具合を医師が目で確認する必要があります。その医師は診察する前に、長女の目を見て、

「いいかな、〇〇ちゃん。身体がお友だちと違った形をしてきて不安だよね。それは、〇〇ちゃんだけが感じるものじゃなくて、そうなったら誰でも不安になるよ。みんないつかは大人になるための準備がはじまるんだけど、〇〇ちゃんにはそれが少し早くきてしまっただけなんだよね。だから不安に感じなくても大丈夫」

と説明してくれました。子どもに直接、理解できる言葉を選んで語りかけてくれたことに、私は感動すら覚えました。そして、医師はこうつづけました。

「先生は男の人だから、こういう話をされるとイヤだなと思ったら正直に言ってね。女の先生もいるからバトンタッチできるよ。それを言うのは〇〇ちゃんの権利だし、言っても悪いことは起きないよ」

 この配慮に、ともに立ち会っていた妻も涙を流していました。長女はその医師の真摯な姿勢に惹かれたのか、「あの先生に診てもらいたい」と希望しました。

娘を連れた夫婦と男性小児科医のイラストPhoto:PIXTA

 2024年、小学校の健康診断で、70代の男性医師が児童の下半身を見た、と報道され、子育て中の親御さんたちを中心に衝撃が走りました。

 その男性医師は報道番組の取材に応えて、

「パンツを開いて、ぱっと見ただけですけど。成熟と成長のバランスが崩れてくるのは、この時期によく出てくる。それを見るためには、二次性徴がどう出てきたかを見ていくのが非常に大事」

と説明しました(日テレニュース、2024年6月8日)。

 つまり、思春期早発症ではないかの確認をしたということなのでした。平均より早く陰毛が生えはじめたか、男の子の場合、精巣が大きくなりはじめたかは、重要な診断基準となっています。

 私はこのニュースを知り、小児科医として診察内容に一定の理解はできるものの、学校の健康診断で全員の陰部を見る必要はないこと、事前に何の説明もなく見たことを考えると、この医師を擁護するのはむずかしいと結論を出しました。子どもへの尊重と配慮が感じられないからです。

 このように、思春期早発症は診察、治療において非常にセンシティブな場面が多いです。同意なくいきなりパンツのなかを見られる経験は、その子が何歳であっても、男の子でも女の子でも性暴力になりえますし、トラウマが残る可能性もあります

 思春期早発症に対応できたとしても、その過程で子どもの心に傷が残るようでは、適切な医療とは言えないでしょう。信頼できない医師のもとに子どもを通院させなければならない家族も、つらい想いをするに違いありません。

頭がモヤモヤする人の横顔のイラストPhoto:PIXTA

 

 思春期早発症は多くの場合、大きな苦痛があるわけではなく、すぐに除去しなければならない病巣があるわけでもないものです。命の危険もありません。思春期早発症であることに気づかずそのまま成人したであろう人が多いことを考えても、必ず治療しなければならないということはないのです。

 しかし、思春期早発症の知識がなかったために治療する・しないの選択ができなかったとしたら、場合によっては本人以上に親御さんを悩ませることになります

 わが家の話をすると、長女は治療をしませんでした。長女、妻、私で話し合って、選択しました。

 治療しない場合、生活するうえで注意したほうがいいことが出てきます。子どもは幼くて気づきにくいので、親が先まわって気を配らなければいけないこともあります。

 思春期早発症の子どもとの暮らしについては、書籍62ページからのコラムで妻とともにお話ししています。ぜひ読んでください。

 

 思春期早発症とひと口にいっても、成長のどの段階で気づいたか、お子さんの成長をどうとらえているかによって対応も変わってくるもので、シンプルにマニュアル化できないむずかしさがあります。
 でもだからこそ、病気についての基本的な知識、現在行われている標準的な治療についての知識を備えておくことが、何かを選択しなければいけないときの、しっかりした柱になります。子どもの成長について悩みながらも寄り添いたいと考えている親御さんにとって、役立つ一冊となれば幸いです。

今西さん(ふらいと先生)へのインタビューが掲載された②に続きます

本記事は3回の連載の1回目です。
1.うちの娘が思春期早発症!? 小児科医の父と、助産師の母が真っ先に心配したこととは(この記事)
2.【インタビュー】早すぎる胸のふくらみ、陰毛、初経…思春期早発症のサインとは? 受診・治療のポイント
3.【インタビュー】思春期早発症の子どもに親が伝えたいこと。学校生活、性教育、性暴力予防まで

 

「もっと知りたい」と思った方はこちらから!

『うちの子、発育が早いかな?と思ったら読む本 思春期早発症の受診・治療・対策』
監修:今西洋介(ふらいと先生/小児科医・新生児科医)/日東書院本社/‏2026年5月発売

書籍表紙「うちの子、発育が早いかな?と思ったら読む本」

思春期早発症は、それ自体が命に関わる病気ではありません。
しかし、思春期早発症のことを「知らない」ばかりに治療の選択肢を失ってしまうと、後々の後悔につながることもあります。
また、まれに脳腫瘍などの重大な原因が潜んでいることもあり、放置はおすすめできません。
ただ、残念なことに、せっかく受診しても「発育は個人差です」「様子を見ましょう」と言われて、治療の機会を失ってしまうこともあるようです。
本書では、お子さんと家族のための「思春期早発症」の基礎的な知識と役立つ情報をお届けします。
お子さんの“早すぎる発育”に「あれ?」と思ったら、ぜひ本書をお読みください。

 

<取材・監修協力>

今西 洋介

石川県金沢市生まれ。富山大学医学部医学科を卒業後、周産期母子医療センターのNICUで日本小児科学会専門医、日本周産期新生児専門医として活躍。2024年には公衆衛生博士号を取得、現在は米国で子どもの医療政策学の研究を行う傍ら、書籍やニュースレター、講演などの情報発信を通じて、正しい育児、医療知識の啓発を行っている。

 

三浦 ゆえ

編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る小児性被害』(今西洋介著、集英社インターナショナル)、『性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うことなかれ』(斉藤章佳・にのみやさをり著、ブックマン社)、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)などの編集協力を担当する。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。

この記事の執筆医師

今西洋介先生

日本小児科学会専門医 日本周産期新生児専門医 日本小児科学会 成育基本法推進委員会委員

石川県金沢市生まれ。富山大学医学部医学科を卒業後、周産期母子医療センターのNICUで日本小児科学会専門医、日本周産期新生児専門医として活躍。2024年には公衆衛生博士号を取得、現在は米国で子どもの医療政策学の研究を行う傍ら、書籍やニュースレター、講演などの情報発信を通じて、正しい育児、医療知識の啓発を行っている。

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この記事の監修医師

今西洋介先生

日本小児科学会専門医 日本周産期新生児専門医 日本小児科学会 成育基本法推進委員会委員

石川県金沢市生まれ。富山大学医学部医学科を卒業後、周産期母子医療センターのNICUで日本小児科学会専門医、日本周産期新生児専門医として活躍。2024年には公衆衛生博士号を取得、現在は米国で子どもの医療政策学の研究を行う傍ら、書籍やニュースレター、講演などの情報発信を通じて、正しい育児、医療知識の啓発を行っている。

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